夢のアト - 2
佐々木直人は数年ぶりに会う里緒に驚いていた。
大きな鞄とグレーのスーツ。それにフレームのない眼鏡。
長身で端正な顔立ちをしていることもあり、優秀な社員に見える。
「里緒ちゃん、だよね?」
「はい。直さんもお変わりなく。」
互いに、次の言葉に戸惑う。
「とりあえず、立ち話も何だから、どこかに入ろうか。」
唐突に直人が歩き出す。
それに里緒も従う。
すぐそばのファーストフード店になど眼中にもくれず、里緒が今歩いてきたばかりの通りを進む。
付き合っているわけでもないのに隣に行くのは失礼な気がして、里緒はわずか斜め後ろから彼を追った。
着いた先は、注意深く見てなければ見過ごしてしまうような、小さなカフェ。
客層は、穏やかな午後を過ごす老人から、暇をもてあます学生。
誰もが自分以外には関心がないようで、レジ付近にいた女性店員以外、里緒達に一瞥をくれるものなどいなかった。
店員に案内されるまま、壁際の席に向かい合って腰をかける。
無表情なその女性は、事務的な態度で注文を聞いていくと、さっさと持ち場に戻ってしまった。
「東京で就職したんだ?」
「えっ、はい。」
即答するも、緊張で声が上ずる。
初めて会った時、直人はライブハウスのステージでドラムを叩いていた。
どんなに熱いステージでも淡々とスティックを振るう。
コットンシャツに黒のパンツ姿も相俟って、ステージの後ろから、他のメンバーとは異なる存在感を放っていた。
一方、里緒は、ライブハウスの後方から、その姿を追いかけていた。
友達の縁で付き合っていたボーカルが所属するバンド。
その友達と、もらったチケットを片手に、よく遊びに行っていた。
「今は?もしかして営業の外回り?」
「いえ。転職活動中で・・・。今さっき面談をしてきたところなんです。」
俯き加減に答える。転職を恥じているわけではないが、どこか、後ろめたい気持ちがあった。
「転職・・・か。俺も考えたことあったなぁ。結局、今の会社に居ついてるけどさ。」
視線を逸らし、窓の外を眺める。
せわしなく歩く人々の群れを見て、何かを思い出しているようだった。
「今は営業やってる。今日もこれから取引先と打ち合わせの予定だったんだけど、先方にすっぽかされちゃってね。そういうときはここで大体時間潰してる。社会人は全然来ないし。ここ、意外と穴場だよ。」
程なくして、例の店員が頼んだ品を運んでくる。
トレーには2つのコーヒーカップが並ぶ。
里緒は少しだけ背伸びをした。
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