夢のアト - 1
新宿、高層ビル群。太陽から地表へ、熱と光の過剰投与。
行き場のない熱が至るところにあふれている。
石塚里緒は、その真っ只中を歩いていた。
街頭ビジョンの天気予報は、「赤い太陽」と「35℃」を交互に映す。
黒のリクルートスーツが重く体にまとわりつく。パンプスの底が地面に吸い付く。久しぶりに履いたこともあって、爪先に痛みが走る。
転職の面接。
10月には新しい会社に入る。そうなると、1ヶ月前の9月には辞表を出さなければならない。そこから逆算すると、8月中には新しい会社の内定をもらっておきたい。
そうなると、必然的に熱の逃げないコンクリートジャングルの中を歩き回ることになる。
額に滲む汗をハンカチで押さえる。しかし、収まる気配がない。
つい、通り沿いの店に目が行く。
仕事は体調不良を理由に、一日休みをもらっている。
この後、特に予定はない。
会社の人間にこの姿を見られなければ、夜まで悠々と過ごすことができる。
ここ数ヶ月、彼女は日付が変わる間際まで、貸し与えられたマシンと向かい合う生活をしていた。
家に帰ったら、お風呂に入って寝るだけ。
休日、どこかに遊びに行くなんて、もってのほか。
それが当たり前になりかけていた。
それでも仕事が終わらない。加えて、周囲の人間関係は、里緒が参画した当初から最悪だった。
互いに作業と責任を押し付けあう。力が弱い程、作業負荷の高い仕事を割り当てられる。
誰も助けてくれない。誰もSOSを出さない。
久しぶりに羽を伸ばしたとしても、罰は当たらない。
有休は労働者の権利。
朝、嘘をついて休むことに抵抗を覚えつつ、会社に連絡を入れた。
電話ではなく、メール。
送信ボタンを押した瞬間、肩の力が抜けた。
文明の利器とは、時として弱者の強力な武器となる。
遅めの昼食と少しの休憩にありつくために、長時間座って過ごせる場所を探す。
200m先にファーストフード店が見える。
干からびそうな体に冷水を取り入れるべく、ゆっくりとした足取りで近づく。
しかし、店まであと数歩のところで、動きが止まる。
「あ。」
見知った顔。
相手も気づいた。こちらに駆け寄ってくる。
「直さん!」


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