Why do you sing a song? - 前編
駅前に設けられた広場。
夜毎に集まるウタウタイ。
特に仕事もプライベートもない夜、僕は決まってここに足を運ぶ。
半分仕事。半分趣味。
プロの作曲家としてもうすぐ10年。
その前の数年間、バンドの一員として表舞台にも立っていた。
バンドを解散し、裏方に回ってからは、暇を見つけてはこの広場に立ち寄ることにしている。
一つつは初心を忘れないため。
もう一つは、自由な音を取り込むため。
人の足を止める音色。
思わず耳を塞ぐ、自己満足の雑音。
あの時もそうだった。
* * *
夏のある夜。
初めて見る少女。
酷い。
曲は言わずもがな、ギターの音が滅茶苦茶。チューニングができていない。
周囲は閑古鳥が鳴いている。
でも、声はいい。
高音で、しかし嫌味のない柔らかさ。
いても立ってもいられなくて、声をかける。
「家にいてもつまらないから。」
自分の投げた言葉だけが抜けたワンシーン。
彼女の鋭い眼光と、その一言だけが僕の胸に今も焼きついて離れない。
翌日。
ライブの準備をする彼女に遭遇した。
どう頼んだのかは忘れたが、彼女からギターを借りることに成功した。
手書きの譜面にあわせて、そっと爪弾く。
それにあわせて、彼女が歌声を乗せる。
琴線のような、細くて、けれどもしっかりとした響き。
熱帯夜にはちょうど良い。
「ナギサ。」
「?」
「わたしの名前。」
ライブ終わり、彼女から話しかけてくれた最初の言葉。
僕は何も言わずに名刺を渡した。
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