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2008年7月

Why do you sing a song? - 前編


駅前に設けられた広場。
夜毎に集まるウタウタイ。

特に仕事もプライベートもない夜、僕は決まってここに足を運ぶ。
半分仕事。半分趣味。

プロの作曲家としてもうすぐ10年。
その前の数年間、バンドの一員として表舞台にも立っていた。
バンドを解散し、裏方に回ってからは、暇を見つけてはこの広場に立ち寄ることにしている。
一つつは初心を忘れないため。
もう一つは、自由な音を取り込むため。

人の足を止める音色。
思わず耳を塞ぐ、自己満足の雑音。


あの時もそうだった。


* * *


夏のある夜。
初めて見る少女。

酷い。
曲は言わずもがな、ギターの音が滅茶苦茶。チューニングができていない。
周囲は閑古鳥が鳴いている。

でも、声はいい。
高音で、しかし嫌味のない柔らかさ。

いても立ってもいられなくて、声をかける。

「家にいてもつまらないから。」

自分の投げた言葉だけが抜けたワンシーン。
彼女の鋭い眼光と、その一言だけが僕の胸に今も焼きついて離れない。


翌日。
ライブの準備をする彼女に遭遇した。

どう頼んだのかは忘れたが、彼女からギターを借りることに成功した。
手書きの譜面にあわせて、そっと爪弾く。
それにあわせて、彼女が歌声を乗せる。

琴線のような、細くて、けれどもしっかりとした響き。
熱帯夜にはちょうど良い。


「ナギサ。」
「?」
「わたしの名前。」

ライブ終わり、彼女から話しかけてくれた最初の言葉。

僕は何も言わずに名刺を渡した。

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Why do you sing a song? - 後編


あの日から丸2年。
今日から「ナギ」という名前で舞台に立つ。
彼女の本名、「和ぐ」、「凪ぐ」を混ぜた。
心を静め、落ち着かせる。ナギを取り巻く全員が目指す方向を名前に込めた。


彼女から連絡を貰ったとき、一通りの準備と並行して、彼女の両親にも会った。
しかし、反対するでもなく、賛成するでもなく、まるで世間話を聞いているかのような反応。
隣で聴いていた彼女は、予想通りの反応に胸をなでおろす。

僕は都合よく受け取って、着々と準備を進めた。


ライブ開始十分前。
CDショップのイベントスペースが今日のステージ。
ナギとしては初めてのライブ。
僕はスタッフの一人として、彼女を袖から見守る。

ステージに向かう直前、僕は頭に浮かんだことをそのまま口にした。

「一緒に楽しめる人がいるからだよ。」

答えが返ってきた瞬間、始めて会った日のことが脳裏に蘇る。
あぁ、あの時も同じことを訊いたんだ。

後姿をそっと見送りながら、彼女の成功を祈った。


* * *

今日もまた駅前を散策する

ナギは次々と売れていき、今は僕の手の届かないところにいる。
たまに連絡をもらうことはあるが、仕事での付き合いはほとんどない。

デビューしてから、彼女を取り巻く環境は劇的に変わった。
それは身近にいた僕が一番よく知っている。

だからこそ、彼女にあのときと同じ問いかけをしたい。
彼女の歌声が日の目を見た今、どんな答えをするだろう?

願わくば、ナギとして歩み出したあのときと同じ言葉でありますように。

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