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浮クチカラ

潜れ。


本能の赴くまま。深く、深く。
左右の肺一杯に吸い込んだ息が続く限り。


目指す場所はただ一つ。
そこは何人も行き着いたことがない。
一度知ってしまったら、また訪れずにはいられない。
危険は百も承知。
害はない。しかし、依存性は高い。

底に辿り着く。
一点の曇りもない無機質なところ。
聖域という言葉がふさわしい。
指先で軽く撫ぜ、そっと唇を近づける。

これでここに自分が存在した証拠を体に刻めた。

全身から力を抜く。
足元から膨れ上がる斥力に身を委ねる。
無重力に似た感覚。
もし人間に浮遊力が備わっていたとしたら、それに近い経験ができたかもしれない。


水面が近づく。
淡い光を反射しているのが、裏側からでもよくわかる。
腕を目一杯に伸ばす。
もう少し。あと少し。

指先が水面を付き抜け、穏やかな波を乱す。
続けて顔を突き出し、腹の底から酸素を取り込む。


仰向けになり、胸を空気に晒す。
小波に背中を沿わせる。
心地よい揺れに任せて漂う。

昨日の不満や明日の心配で侵食された脳を空にする。
悩むことを止めて、ゆったりとした時の流れを体感する。


もうすぐ空が橙に染まる。
その前に、もう一度沈みにいこう。

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