一番ほしかったモノ
誕生日でもないのに、彼から指輪のプレゼント。
誰もが羨むブランドもの。
夏のボーナスが出た瞬間に買ったとのこと。
社会人2年目一人暮らしで、生活に余裕があるわけでもないのに。
「ありがとう。」
咄嗟に出てくるのは上っ面の謝辞。
取り繕った笑みを浮かべてケースを開ける。
今までの経験から、どんな形のものかは大体想像がついている。
また、このデザイン。
シルバーのリングに、1つだけ大きな宝石がついているタイプ。
台座に乗っている石が違うだけで、それ以外は前と殆ど変わらない。
私が好きなのは、宝石が埋め込まれているタイプのシルバーリングなのに。
毎回、嬉しい気分を演ずる自分が嫌になる。
指輪だけじゃない。
ネックレスもピアスも香水も。
いつも私に内緒で買ってくる。
服や靴は一緒に選んでくれるし、映画や旅行に至っては事前に相談してくれる。
アクセサリ類だけは一度だって、私の好みを聞いてくれたことはない。
付き合いだしてもうすぐ1年。
思えば最初からそうだった。
たまに私が買ったものをしていくと、見つけた瞬間に顔を歪ませる。
ただ単純に、その日の服に合わせただけなのに。
爪先立ちの背伸びも、強引な押し付けも、日を重ねるごとに不快になっていく。
きっかけは、たまたま同じ現場で仕事した仲での打ち上げを兼ねた飲み会。
彼と私は元々は別の会社の人間で、その飲み会後、私と彼は別の現場に行くことが決まっていたが、そ
の場で連絡先を交換したところから始まった。
当初は理想の相手だと浮かれていたのに、1ヶ月も経たないうちに現実との歪みが生まれた。
なのに続いているのは、ただの惰性なのかもしれない。
私は初対面の彼がよかったのに。
数日後、ふとしたことで喧嘩したついでに言ってしまった。
「あんな指輪、いらない!」
気付いたら、この間の指輪を外して投げていた。
それに対し、彼から出てきた言葉に耳を疑った。
「人が買ってきた指輪位、文句言わずに付けろよ。こっちはそのデザインが好きだから、似合うと思っ
て買ったんだし。」
これであきらめがついた。
彼が求めていたのは、私みたいに自分の好みを優先する女じゃない。
「じゃあ、これを喜んで付けてくれる人と付き合えば?」
捨て台詞を残し、そのまま家へ。
その後、彼は追いかけてくることも、連絡を取ってくることもなかった。
帰宅後、彼からもらったものを、すぐさまネットオークションに出した。
"思い出を金にする。"
テレビの向こうで、顔にモザイクかけられた女は、嬉々としてプレゼントを売り物にしていた。
そのときは汚く感じたのに、今は不思議と共感できる。
無言でデジカメに収め、それを次から次へとアップロードする。
単調な作業の間、目の前に並んだものに何も愛着を感じなかった。
最後の出品が終わったとき、快感すら覚えた。
私が求めてるのは、高価な指輪でもネックレスでもない。
難しくも、お金がかかることでもない。
「一緒に見に行こうよ。」
等身大の、この言葉だったのに。
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