Leap Out!

先が見えない。
頭に悩み以外を詰められない。
与えられた作業に手がつかない。

僕の身体を貫く視線に怯え、そっと視線を逸らす。
時として聞こえる自分の名前に、思わず耳を塞ぐ。
根も葉もない噂の元にされるのが嫌で、きつく口を結ぶ。

ホラーとは違う、漠然とした恐怖を覚える。
気を抜くと涙腺が緩む。
本心が出せなくて、無理やり笑ってみせる。

息が詰まりませんか?
地面ばかり見て歩いていませんか?
満足してますか?


イイカゲン、気ガ狂イソウニナリマセンカ?


ここを抜け出そう。


走れる余力のあるうちに。
追っ手を払う気力が残っているうちに。
わざとでも笑顔を作る精神力を蓄えていられるうちに。

残りたければ残ればいい。
僻みたければ、そこで勝手にやってればいい。
僕を外して何かしたければ、好きにすればいい。


生憎、そんな奴とつるむお人好しじゃないんだ。


僕は行くよ。


ここから抜け出すために。
遥か高みに辿り着くために。
もう一度心から微笑む自分を取り戻すために。

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S o R a

空ってこんなに青かったっけ。


久しぶりの田舎。
実家近くのバス停。
全く変わらない田舎の町並み。
歩道を覆いつくす昨晩の雪。
乾いた、肌を刺す空気。

そして、頭上に広がる澄んだ青。

何色を混ぜればできるんだっけ。

昔の記憶を辿る。
青と白のグラデーション。
色使いを工夫したくて、黒や緑の配分も試した。

今、絵筆とパレットを持ったら、どんな空を生むだろう。

到着してから、10分以上経っていたことに気づく。

時間を意識しない生活なんて、ここ数年考えたことがなかった。
空を眺める時間ですら惜しむことが、いつしか普通になっていた。

腕時計をバックの奥底にしまい込む。
ここでは、時間に縛られた生活など必要ない。

左肩のバックを掛け直し、もう一度、見上げる。
頭上の絵画は、刻々と姿形を変えていく。


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夢のアト - 1

新宿、高層ビル群。太陽から地表へ、熱と光の過剰投与。
行き場のない熱が至るところにあふれている。

石塚里緒は、その真っ只中を歩いていた。

街頭ビジョンの天気予報は、「赤い太陽」と「35℃」を交互に映す。

黒のリクルートスーツが重く体にまとわりつく。パンプスの底が地面に吸い付く。久しぶりに履いたこともあって、爪先に痛みが走る。

転職の面接。
10月には新しい会社に入る。そうなると、1ヶ月前の9月には辞表を出さなければならない。そこから逆算すると、8月中には新しい会社の内定をもらっておきたい。
そうなると、必然的に熱の逃げないコンクリートジャングルの中を歩き回ることになる。

額に滲む汗をハンカチで押さえる。しかし、収まる気配がない。
つい、通り沿いの店に目が行く。

仕事は体調不良を理由に、一日休みをもらっている。
この後、特に予定はない。
会社の人間にこの姿を見られなければ、夜まで悠々と過ごすことができる。

ここ数ヶ月、彼女は日付が変わる間際まで、貸し与えられたマシンと向かい合う生活をしていた。
家に帰ったら、お風呂に入って寝るだけ。
休日、どこかに遊びに行くなんて、もってのほか。
それが当たり前になりかけていた。

それでも仕事が終わらない。加えて、周囲の人間関係は、里緒が参画した当初から最悪だった。
互いに作業と責任を押し付けあう。力が弱い程、作業負荷の高い仕事を割り当てられる。
誰も助けてくれない。誰もSOSを出さない。

久しぶりに羽を伸ばしたとしても、罰は当たらない。
有休は労働者の権利。
朝、嘘をついて休むことに抵抗を覚えつつ、会社に連絡を入れた。
電話ではなく、メール。
送信ボタンを押した瞬間、肩の力が抜けた。
文明の利器とは、時として弱者の強力な武器となる。

遅めの昼食と少しの休憩にありつくために、長時間座って過ごせる場所を探す。
200m先にファーストフード店が見える。

干からびそうな体に冷水を取り入れるべく、ゆっくりとした足取りで近づく。
しかし、店まであと数歩のところで、動きが止まる。

「あ。」

見知った顔。
相手も気づいた。こちらに駆け寄ってくる。

「直さん!」

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